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東京高等裁判所 平成8年(ネ)670号 判決

控訴人

静岡県白蟻予防相談所こと

松本皖司

右訴訟代理人弁護士

大多和暁

被控訴人

三和建設株式会社

右代表者代表取締役

井出孝二

右訴訟代理人弁護士

中村光央

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、建築請負を主たる業とする被控訴人が、前記肩書名で白蟻の駆除ないし予防の請負を業とする控訴人に対し、被控訴人が後記各施主から請け負って建築した各居宅について、控訴人において、その白蟻予防を請け負い、各施主に宛てて保証書を発行していたのに、その後、右居宅に白蟻が発生したため、被控訴人において、白蟻駆除などを行い、合計一一九〇万三八六〇円の出捐を余儀なくされたと主張して、その支払を求めている事案である。

二  前提となる事実関係

本訴請求に対する判断の前提となる事実関係は、概略、次のとおりであって、当事者間に争いがないか、あるいは、弁論の全趣旨によって、これを認定することができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  被控訴人は、平成元年から平成二年にかけて、次の各施主からそれぞれ居宅の建築工事を請け負い、当該各居宅(以下「本件各居宅」といい、各居宅を区別する場合には、各施主の名前に応じて「中村宅」ないし「片山宅」という。)を完成して引き渡した。

(一) 中村浩一

(二) 鈴木康高

(三) 大橋晋(現・青木利浩)

(四) 土田広和

(五) 片山省吾

2  被控訴人は、その建築する建物の白蟻予防をかねて控訴人に請け負わせていたところ、本件各居宅についても、白蟻予防を控訴人に請け負わせ、その施工後、控訴人から「白蟻駆除予防の日依り向五年間白蟻発生に関し、保証致します。」等の記載がある各施主に宛てた保証書(以下「本件保証書」という。)の発行を受けたので、これを各施主に交付した。

3  被控訴人は、平成五年夏ころ、本件各居宅の一部の居宅に白蟻が発生したので、控訴人に報告し、控訴人は、その駆除などを行った。

4  被控訴人は、翌年の平成六年八月にも、本件各居宅の一部の居宅に白蟻が発生したため(以下「本件被害」という。)、控訴人に報告したが、控訴人は、本件保証の対象ではないとして、その駆除などを拒絶した。

5  そこで、被控訴人は、株式会社フジ環境サービスに請け負わせて本件各居宅の白蟻駆除及び予防並びに補修あるいは点検を行い、次のとおり合計一一九〇万三八六〇円(以下「本件金員」という。)を出捐した。

(一) 中村宅 五四〇万〇五四三円

(二) 鈴木宅 五六四万七五一七円

(三) 青木宅 二九万二八〇〇円

(四) 土田宅 二六万六〇〇〇円

(五) 片山宅 二九万七〇〇〇円

三  本件訴訟における争点

本件訴訟における第一の争点は、本件被害が本件保証書に基づく保証の対象に含まれるのか否か、すなわち、本件保証の範囲、第二の争点は、被控訴人が本件被害に伴い本件金員を出捐したとして、控訴人にその支払を求め得るのか否か、すなわち、本訴請求の根拠であるところ、この点に関する当事者双方の主張は、概略、次のとおりである。

1  本件保証の範囲

(一) 被控訴人

(1) 本件保証書には、本件保証の範囲を施工箇所に限定する旨の記載はなく、白蟻の発生した場所にかかわらず、施工後五年間、一切の白蟻発生について無償保証するというものであって、平成五年の白蟻発生も本件被害も、いずれも本件保証の対象となるべきものである。控訴人は、その請け負った単価が低廉であったようにいうが、これまでの被控訴人と控訴人との間の請負契約の単価は、一平方メトトル当たり八〇〇円ないし一〇〇〇円であって、それは、建築業者が白蟻業者に発注する平均的な単価でもあるから、本件が特に低廉であったということはない。

(2) 控訴人は、本件保証は、もともとは、ヤマトシロアリが発生した場合を対象としたものであって、イエシロアリが発生した場合は対象外であったようにも主張するが、本件保証書には、白蟻の種類をヤマトシロアリに限定する旨の記載はなく、控訴人主張のように白蟻の種類を限定して本件保証書を解釈することは許されない。

(3) また、仮に本件保証の範囲が、控訴人主張のとおり、施工箇所に限定されるとしても、本件被害は、地中から建物へと白蟻が侵入した場合であるから、本件保証の対象となるべきものである。控訴人は、本件被害に本件保証書の附記事項が適用されるとも主張するが、控訴人が白蟻予防を施工した後に被控訴人が本件各居宅の地盤を掘り返したりした事実はなく、附記事項が適用されるべき場合ではない。そもそも、控訴人は、平成五年に発生した白蟻の駆除を行ったが、その駆除が杜撰であったため、本件被害に至ったのであって、控訴人が平成五年の白蟻駆除を徹底していれば、本件被害を防止し得たはずであるから、控訴人は、この点に照らしても、本件被害に対する責任を免れるものではない。

(二) 控訴人

(1) 本件保証書には、施工後五年間、一切の白蟻発生について無償保証する旨の記載はあるが、附記事項のイ、ロ、ハ、ニ、ホの各項及びそれに準ずる場合については、本件保証の対象から除外している。

白蟻予防は、土壌に乳剤を散布する方法と木材に油剤を塗布する方法とによって行われるが、土壌処理は、散布された乳剤によって幕を張って白蟻の進入を予防するものであるため、施工後に乳剤を散布した土壌に変更を加えられると効果がなくなってしまうので、本件保証書においても、附記事項のイとして、施工後に地盤を取り壊した場合、そのホとして、客土、盛土をした場合を除外しているのである。

また、本件保証書には、施工面積が記載されているが、それは、油剤を塗布した面積を記載したものであって、本件保証の範囲は、白蟻予防を施工した箇所に限られる。本件は、一平方メートル当たり九〇〇円の単価で本件各居宅の床面に油剤を塗布したものであるが、白蟻予防の標準価格は、昭和六二年当時、一平方メートル当たり二一九〇円であったから、本件のような低廉な料金で、白蟻予防の施工箇所でない場所までその範囲に含めて保証したものでないことは、自ずと明らかである。

(2) 白蟻には、大別すると、ヤマトシロアリとイエシロアリという二種類がいるが、ヤマトシロアリは、日本全国に分布して、湿った木材を好み、はっきりとした巣は造らず、加害木材の中を巣として生活するのに対して、イエシロアリは、主として西方の海岸沿岸部に生息して、湿った木材に限らず、手当たり次第に猛烈に食害していき、天井裏、壁の中、床下、土中などに分泌物で巣を造っていく習性がある。したがって、イエシロアリの発生を予防するには、その施工場所を建物の床面だけでなく、壁面、小屋組み、桁、梁まで含める必要があるので、施工面積も拡大し、その費用も、ヤマトシロアリの場合とは比べものにならないほどに高額となる。本件保証も、そのようなことから、もともとは、ヤマトシロアリの発生の防止を保証する趣旨であったが、本件保証書には、白蟻の種類を限定する旨の記載がないので、控訴人は、白蟻予防を施工した本件各居宅の床面ないしその地盤から発生した白蟻については、それがイエシロアリであっても、本件保証の対象とされることは争わない。

(3) 本件保証は、結局、本件各居宅の床面ないし地盤から白蟻が発生した場合に、附記事項の除外事由に該当しないときは、それがヤマトシロアリに限らず、イエシロアリでも対象となるところ、本件被害は、控訴人が白蟻予防を施工した床面ないし地盤から発生したものではなく、仮に施工箇所から白蟻が発生しているとしても、控訴人の施工後、被控訴人が本件各居宅の配管工事を下請業者に行わせた際、配管業者が土壌を掘り起こしているから、附記事項が適用され、いずれにしても、本件保証の対象外ということになる。なお、控訴人は、被控訴人の要請に従い、平成五年に青木宅に発生した白蟻の駆除を行った。しかし、それは、平成五年の白蟻発生も本件保証の対象ではなかったが、被控訴人との従前の関係からサービスとして行ったものであるうえ、青木宅のコンクリートパネルを取り外さなければならない箇所もあったため、被控訴人の担当者に対し、コンクリートパネルを取り外してまで、施工するのかどうか検討するように指示していたのに、被控訴人から指示がなく、施工をすることができなかった箇所もあるが、当該箇所を除けば、サービスとしてではあっても、完全に駆除を行っているから、平成五年の駆除が杜撰であったため、その翌年の本件被害に至ったということはない。

2  本訴請求の根拠

(一) 被控訴人

被控訴人は、控訴人が本件被害に伴う白蟻駆除などを行わなかったため、これを株式会社フジ環境サービスに請け負わせ、前記のとおり、本件金員を出捐したが、本件訴訟において、被控訴人が控訴人に対して本件金員の支払を求める根拠は、概略、次のとおりである。

(主位的請求)

(1) 本件保証書は、控訴人が、その施工した白蟻予防について、各施主に対して施工後五年間の白蟻発生の防止を被控訴人との間で合意したものであるが、いわゆる第三者のためにする契約に当たるところ、各施主は、本件保証書を被控訴人から受領することにより受益の意思表示をしたので、控訴人は、各施主に対し、本件保証に係る責任を負う。

(2) 控訴人は、本件被害が本件保証の対象であったのに、白蟻駆除などを行わなかったため、被控訴人は、利害関係のある第三者として、各施主に対し、本件被害に伴う白蟻駆除などを行い、本件金員を出捐した。

(3) よって、被控訴人は、第三者弁済による求償権に基づき、控訴人に対し、本件金員及びこれに対する被控訴人の控訴人に対する支払催告の日の翌日である平成七年五月三一日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(予備的請求)

(1) 本件各居宅の白蟻予防は、各施主から被控訴人が注文を受け、控訴人に対して下請けさせたものであるが、控訴人は、各施主に宛てて本件保証書を発行することにより白蟻発生の防止を保証し、被控訴人も、各施主から直接に白蟻予防を請け負った者として、白蟻発生の防止について責任があるので、結局、控訴人と被控訴人とは共同して各施主に対して白蟻発生の防止を保証していたことになる。

(2) 被控訴人は、控訴人と共同して保証した債務の履行として本件出捐をしたが、被控訴人と控訴人との間では、その保証に係る責任の負担割合は、控訴人が一〇〇、被控訴人が○とみるべきである。

(3) よって、被控訴人は、控訴人との共同保証に係る求償権に基づき、控訴人に対し、本件金員及び前同様の遅延損害金の支払を求める。

(二) 控訴人

本件保証の対象となる白蟻発生に対して控訴人が責任を負うことは否定しないが、本件被害に対する責任は争う。仮に控訴人が責任を負うとしても、被控訴人の建築した建物に控訴人が低廉な価格で白蟻予防を施工してきた関係などに照らせば、本訴請求は、権利を濫用するものであって、許されないというべきである。

第三  当裁判所の判断

一 本件保証書に基づく保証の範囲

1 控訴人が本件各居宅の各施主に宛てた本件保証書を発行し、控訴人からその交付を受けた被控訴人が各施主に本件保証書を交付していることは、前説示のとおり、当事者間に争いがないので、本件保証書に基づく保証をめぐる控訴人、被控訴人及び各施主との間の法律関係はひとまずおき、本件保証の範囲について検討することとする。

2 成立に争いのない甲第一号証の一ないし四によれば、控訴人が中村宅、鈴木宅、土田宅及び片山宅について発行した本件保証書には、1の項に「白蟻駆除予防の日依り向五年間白蟻発生に関し、保証致します。」との文言が、2の項に施工年月日が、3の項に保証期間が、4の項に施工物件及び施工面積が、5の項に施工物件保証者として控訴人が記載されているほか、附記事項として、イないしトが記載され、そのロには「施工后、増改築した場合その面積は含まない。」との文言が、ホには「施工后其の物件を立退等に依る徹去及構造上の変更、例えば客土、盛土をした場合は保証の出来ない場合がある。」との文言が、ヘには「イ、ロ、ハ、ニ、ホ、各項及それに準ずる場合を除き一斉の白蟻発生に就いて無償保証することを原則とする。」との文言が記載されていることが認められ、弁論の全趣旨によれば、青木宅について発行された本件保証書も、これと同旨のものであったと認められるが、本件保証書には、右認定のとおり、本件保証の範囲が施工箇所に限定される旨を明記した文言はない。

しかしながら、契約書の解釈は、その文言に拘泥して行われるべきものではなく、当該契約書が作成されるに至った経緯、その作成時の状況などの事情を勘案して、当該契約書の趣旨とするところを明らかにするようにして行われるべきところ、これを本件保証書についてみると、当審における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、(1) 白蟻予防は、土壌に乳剤を散布する方法と木材に油剤を塗布する方法とによって行われるのが通常であること、(2) 本件各居宅に対する白蟻予防も、そのような方法によって行われ、本件各居宅の地盤に乳剤を散布し、また、その床面に油剤を塗布したものであったこと、(3) 本件保証書の施工面積として記載された数値は、本件各居宅の油剤が塗布された床面の面積であることが認められ、この認定を妨げる証拠はない。そして、弁論の全趣旨によれば、控訴人が本件保証書を発行したのは、白蟻予防の請負人として、請負契約に基づく瑕疵修補責任の一環として、白蟻予防が効果を生じなかった場合の責任を明らかにしたものであると認められることを併せ考えると、本件保証の範囲は、控訴人が白蟻予防を施工した箇所に白蟻が発生した場合、あるいは、その施工箇所に発生した白蟻が他の場所に至った場合に、その責任で駆除などを行う趣旨であると解されるべきものであって、本件保証書には、前認定のとおり、白蟻予防を施工した後、増改築をした場合は、その面積を含まない旨の記載があることに照らしても、本件保証書が白蟻予防のための施工をした箇所を保証の対象とすることを前提に作成されていることは否定することができない。

被控訴人は、本件保証書に、前認定のとおり、一切の白蟻発生について保証する旨の文言があることから、本件保証の範囲は限定されていないと主張するが、床面に白蟻予防を施工したのに、例えば、床面に発生した白蟻が天井などに至った場合を除き、床面とは関係がなく天井に白蟻が発生した場合にも、本件保証の効力が及ぶという解釈が是認されるためには、床面に白蟻予防を施工すれば、床面に白蟻が発生した場合ではないのに、天井などに白蟻が発生することをも防止し得るという関係が認められる場合であることを必要とし、そのような関係が認められないのに、控訴人の施工した白蟻予防とは関係がない場所から白蟻が発生した場合にまで本件保証に係る責任が及ぶというような解釈は、合理的ではないといわなければならない。

しかるところ、白蟻予防について、床面に白蟻予防を施工すれば、当該箇所とは関係がないのに、天井などの白蟻発生も防止し得るという関係があるとは認められない。

また、本件保証書には、前認定のとおり、附記事項が記載されているところ、それは、本件保証の範囲である施工箇所に白蟻が発生した場合、あるいは、その施工箇所に発生した白蟻が他の場所に至った場合であっても、附記事項に記載された客土、盛土などがあるときには、控訴人の施工した白蟻予防の効果が消滅ないし減殺するため、本件保証の除外事由として記載されたものであることも、自ずと明らかである。

3 右説示したところによれば、本件保証書は、その合理的な解釈として、控訴人が白蟻予防を施工した箇所に白蟻が発生した場合、あるいは、その施工箇所に発生した白蟻が他の場所に至った場合に、かつ、附記事項に記載された除外事由に該当しないときに限り、その施工後に発生した白蟻の駆除などについて控訴人が責任を負う趣旨で作成されたものであると認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

二  本件被害に対する本件保証の効力

1  弁論の全趣旨により被控訴人主張のとおりの写真であると認められる甲第一〇ないし第一二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三ないし第一七号証によれば、本件被害は、本件各居宅のうち、中村宅、鈴木宅及び青木宅に発生したが、そのいずれもヤマトシロアリではなく、イエシロアリであって、その被害場所は、中村宅及び鈴木宅の建物上部の食害が甚だしく、また、その床下には、地中と床上とに繋がる蟻道があったこと、青木宅には実害が殆どなかったことが認められる。

2  そこで、以下、右認定の本件被害について本件保証の効力が及ぶか否かについて検討することとする。

(一) 控訴人は、ヤマトシロアリとイエシロアリとの違いに言及して、本件保証は、本来、ヤマトシロアリの発生の防止を保証する趣旨であったとも主張するが、本件保証書には、白蟻の種類を限定する旨の記載はないのであるから、控訴人も自認しているとおり、前説示した施工箇所から白蟻が発生した場合には、それが、ヤマトシロアリであってもイエシロアリであっても、控訴人が本件保証に係る責任を免れるものではない。

(二) これに対して、被控訴人は、右認定の本件被害は、イエシロアリが地中から建物に侵入したものであると主張するが、前掲甲第一〇及び第一一号証並びに控訴人本人尋問の結果によれば、中村宅及び鈴木宅の床下にあった蟻道は、建物上部のイエシロアリが造った水取り蟻道である可能性も高く、これをもって、被控訴人主張のとおり、直ちに当該各居宅の床下ないし地中にイエシロアリが発生したものであるとは認められない。

(三) しかるところ、控訴人が本件各居宅の白蟻予防の施工をした箇所は、前認定のとおり、本件各居宅の床面及びその地盤であったが、当審における証人松永久好の供述によると、本件各居宅のうち、右認定の本件被害のあった各居宅それ自体には、イエシロアリの巣はなく、各居宅の裏にある市立小学校の体育館に巣があって、そこから地下を通じて当該各居宅にイエシロアリが発生した可能性があるというのである。

しかしながら、右証人松永久好の証言によれば、被控訴人は、控訴人が白蟻予防の施工をした後にも、配管工事を行うため、下請業者が地盤を掘り起こすことを容認していたことも認められるのであって、これに前掲控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、中村宅及び鈴木宅に発生したイエシロアリの被害は、その裏の小学校の体育館から各居宅の建物上部に飛来するなどして食害したものであると認められ、仮に体育館から地下を通じて各居宅の床下ないし地中に発生したイエシロアリが床上に至って食害したものであるとしても、それは、控訴人が白蟻予防の施工をした後、右認定のとおり、当該各居宅の配管業者が地盤を掘り起こしたことに原因していると認めざるを得ない。

右証人松永久好の供述中には、被控訴人の主張に添う部分があるが、同部分を採用することはできず、また、同証人は、その証言後に作成した甲第二六号証の陳述書をもって、当審における右証言について訂正し、その理由を記述しているが、その証言内容に照らし、陳述書の記述を採用することは困難であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右説示したところによれば、右認定の各居宅に発生した本件被害は、本件保証の範囲である白蟻予防の施工箇所である当該各居宅の床面ないしその地盤にイエシロアリが発生したことによるものではない場合であるか、あるいは、仮にその施工箇所にイエシロアリが発生し、これが建物上部に至ったことによる場合であったとしても、本件保証書の附記事項に記載された除外事由に該当するときであるといわなければならないから、いずれにしても、控訴人が本件被害の発生した右居宅の各施主に対して本件保証に係る責任を負うべきものではないというほかはない。

被控訴人は、控訴人が平成五年に発生した白蟻を完全に駆除しなかったためにその翌年の本件被害に至ったのであるから、控訴人は、本件被害に対する責任を免れないとも主張するが、前掲控訴人本人尋問の結果に鑑みれば、平成五年夏ころに、本件各居宅のうち、青木宅にイエシロアリが発生し、控訴人が施工可能な範囲で駆除などを行っていることが認められるところ、その駆除が完全でなかったために翌年の本件被害に至ったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、控訴人の主張を採用することはできない。

したがって、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、被控訴人が主位的請求及び予備的請求の根拠として主張する控訴人、被控訴人及び各施主との間の法律関係について判断するまでもなく、その理由のないことが明らかであるから、これを棄却すべきである。

三  よって、本訴請求を認容した原判決は、相当でないから、これを取り消して本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官滝澤孝臣 裁判官佐藤陽一)

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